予防歯科について
人間と同様、犬や猫においても健康に長生きするためには口腔ケアがとても大切です。犬では歯をきれいに保つことで、平均15%寿命が延びると言われています。これは約2年に相当するとても大きな変化で、口腔ケアの重要性を物語っています。また、高齢の猫では腎不全が多くみられますが、歯周病には腎不全を悪化させる大きな危険性が秘められています。
近年では、1歳以上の犬の約90%に歯周病がみられると言われています。また、猫でも9ヶ月齢頃から歯周病が始まるそうです。そして、この歯周病こそが口臭や寿命にも影響する根源となります。
歯周病とは、歯垢(プラーク)の中の細菌が歯肉に炎症をひき起こし、やがて歯を支えている骨を溶かしていく病気です。歯周病の悪化と共に口臭は強くなり、あごの骨折、慢性鼻炎、口腔癌の発生率上昇などを起こします。また、ただれた粘膜からは大量の細菌が血液中に入り込み、全身の血管や臓器に悪影響を与えます。
人において歯周病は「サイレントキラー(忍び寄る殺人鬼)」とも言われており、近年では心筋梗塞や脳動脈瘤などとの関連も指摘されています。その他にも糖尿病、骨粗しょう症、動脈硬化など全身の病気との関連も報告されており、早死にの危険性は喫煙以上とも言われています。また、アメリカには「Floss or Die(フロスで歯と歯の間に溜まった歯垢を清掃をしますか、それとも死にますか)」という言葉があるくらい、歯垢除去によるお口の健康維持は大切なのです。
歯周病により下あごが骨折した後、
口腔癌が形成されている。
歯周病により上あごの骨が溶け、鼻まで貫通した大きな穴が開いている(口鼻ろう)。
また、舌には重度の潰瘍性口内炎が認められる。
歯周病を予防するという考え
こんなに恐ろしい歯周病ですが、実は予防ができる病気です。
歯周病の原因である歯垢は、食後24時間以内に形成され、歯周ポケットの中に
溜まっていきます。
歯周病対策としては、毎日の歯みがきで歯周ポケットの中の歯垢を取り除く
ことこそが、最も大切で効果的な口腔ケアです。また、犬・猫では人のように
歯と歯が接している部分が少ないため、フロスではなく歯みがきがメインになります。
そうは言っても、犬・猫の歯を磨くというのはなかなか大変なことですね。もちろん「毎日歯を磨く」ことが最も効果的ですが、
できない子でもあきらめる必要はありません。現在、口腔ケアの方法はたくさんあります。わんちゃん・ねこちゃんの性格、
ご家族の生活スタイルに合わせて、その子に合った方法をご提案できますので、どうぞお気軽にご相談ください。
また、アメリカでは2月が歯科健康月間になっているそうです。毎年この時期になると、動物病院では麻酔をかけて歯のケアを
する飼い主さんが多いそうです。そのほとんどが、きれいな状態を保つための歯の処置=予防的な歯科処置であり、歯周病に
なっている歯を抜くためではないそうです。
毎日の口腔ケアに加えて、麻酔下での処置をするとより効果的ですね。私がむかし飼っていた子も、2年に1回は麻酔下での
処置をしていたので、最後まできれいな口を維持できました!
歯科診療も、悪くなったら治療するという考えから、悪くならないように予防するという考えに変わってきました。
始めるタイミングに年齢は関係ありません。このサイトを見たとき、下記の「お口と歯の健康セルフチェック」で1つでも
該当したときなど、まずは当院にてご相談ください。
すでに歯石がついている場合には?
まず、歯科検診を行い現在の歯周病の状態を確認いたします。特に歯周病が進行している場合、口臭が強くご家族が困っている
場合、歯の痛みがある場合などでは、麻酔下での処置をしてから口腔ケアをはじめることが推奨されます。
全身麻酔がご不安な方も、一度ご相談ください。年齢・全身状態を考慮して判断いたします。ただ、どれだけ高齢であっても、
歯周病を放置するほうが危険性は高いと考えられるため、麻酔前検査で全身的な精密検査を行い、問題点がなければ実施することを検討いたします。もし麻酔が厳しいと判断された場合でも、できる範囲での口腔ケアをご提案いたします。
また、歯周病が重篤であごの骨の損傷が激しい場合には、処置による骨折の危険性が高くなるため専門病院をご紹介させていただくことがあります。
先日は17才のわんちゃんの処置を行いましたが、それまで苦しんでいた症状から解放され、6ヶ月ほど経った現在でも処置前より元気に過ごしています!
上記の17歳のわんちゃん(処置前の下あごの写真)
歯は歯石に埋もれてほとんど見えず、歯茎と歯石の間からは膿が出ています。
歯周病があると、ただれた歯茎から大量の細菌が血液中に入ります。このわんちゃんはその細菌により再発性の慢性膀胱炎を起こしており、ひどい時には下痢や食欲不振などの症状に苦しめられていました。
お口と歯の健康セルフチェック
1つでも該当したときには、歯周病の疑いがあります。まずは当院にてご相談ください。
その子にあった口腔ケアを始めましょう!
※無麻酔での歯科処置について
最近では無麻酔での歯科処置というものもあるようです。ただ、この処置では歯の表面をきれいにできても、歯周ポケットの掃除はうまく行えません。これでは歯周病の治療にならず、見た目をきれいにする以外に何の意味もありません。そのため歯の外見はきれいなのに、歯周病が進行して抜歯が必要になる子が増えているそうです。
日本小動物歯科研究会という歯科専門の研究グループがありますが、そこで無麻酔下での歯石除去についてのコメント『無麻酔歯科処置の危険性』がありますので、是非ごらんになってください。
南柏たなか動物病院
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